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漢方医学の診察方法―「四診(ししん)」のお話

きめ細かなオーダーメイド治療ができるのが漢方の特色

検査データを重視する西洋医学に対して、患者さんの心と体全体の状態をみて、さまざまな症状や体質の特徴を総合的にとらえながら、全体のひずみを改善していくのが漢方療法。治療に対する考え方も、西洋医学とは異なります。

漢方療法の特徴を表す言葉に「同病異治(どうびょういち)」という言葉があります。西洋医学では、たとえば頭痛には鎮痛剤、咳には咳止めなど、ひとつの病気や症状に対しての治療法が決まっていますが、漢方では同じ症状でも、個人個人の体質などによって漢方薬を使い分けて、その人にもっとも適した治療を行っていきます。これが、「同病異治」。

 

西洋医学的に同じ病名であっても、漢方療法では、人によって処方される薬が違うことがよくあります。
ひとりひとりの体質にあわせて治療を行う漢方では、治療の第一歩として患者さんの「証」を見極めます。「証」というのは、その人の体格や基礎体力、免疫力、症状のあらわれ方などをさまざまな角度からとらえた、漢方独自の診断です。

五感をフルに使って診る漢方独自の診察法

漢方医学の「証」の見極めは「四診」と呼ばれる独自の診察方法を用いて行います。「見る」「聞く」「触る」「嗅ぐ」など五感をフルに使って、診察をしていきます。

(1)望診(ぼうしん)

目でからだの状態をチェックする診断方法です。体型や動作、顔色、肌や爪の状態、表情、態度、舌の状態などを観察します。漢方でとくに特徴的なのが「舌診(ぜっしん)」で、舌を詳細に観察しながら、貧血やむくみ、お血(おけつ=血流が滞ってドロドロしている状態)の有無や胃腸の状態などがわかります。

(2)聞診(ぶんしん)

聴覚と嗅覚による診断方法です。声の大きさやトーン、話し方、呼吸の様子やせき、おなかの音などを聞くほかに、体臭や口臭などをチェックします。

(3)問診(もんしん)

西洋医学でも行われている問診では、発症の時期や経過、悩んでいる症状を患者さんの生の言葉を大切にしながら詳しく聞くほか、月経や便通の状態、冷えの有無、病歴などを聞いて患者さんの全身状態を把握します。そのほか、生活習慣や飲食物の好み、日常生活の様子なども聞いて参考にします。

(4)切診(せっしん)

体に直接触れて診察する触診のことです。脈診(みゃくしん)といって脈の深さや速さなど、脈の状態を知ることでさまざまなことがわかります。また、腹診(ふくしん)といって、おなかに触って、腹部の緊張度や動悸・圧痛などを調べて行きます。そのほか皮膚の乾燥や色素沈着、冷えなどもみます。

 

漢方の診察では、四診を行ってその人の「証」を見立て、その証に基づいた薬を処方していきます。
継続して患者さんを診ていると、四診によって、患者さんの体調の変化もよくわかります。たとえば脈を診て「風邪をひきかけている」など、次に起こる病気・トラブルを予測して、病気になる前の「未病(みびょう)」の段階で、体調を立て直せることがよくあります。

「虚実」と「陰陽」

漢方では、診察によって見極めた「証」に従って薬を出します。そのため、同じ病気や症状であっても「証」によって処方される薬が異なります。また、私たちの体は絶えず変化していますから、「証」も一定ではなく、それにあわせて薬を変えていくこともあります。
その人の「証」を見極めるものさしには、「虚実」、「陰陽」、「気(き)血(けつ)水(すい)」などがあります。

虚証(きょしょう)・実証(じっしょう)

「虚証」は、体力や抵抗力が弱ってしまっている状態です。線が細くて、声がか細い、胃腸が弱いなどの特徴のある人は、虚証の人が多いようです。
一方実証は、体力が充実し、病気に対する抵抗力が強い状態で、がっちりとした体格で、声が大きく、血色もよく行動的といった特徴がみられます。また、虚証と実証の中間に当たる中間証というタイプもあります。
実証の人は、虚証の人と比べると元気がよくて健康的に思えるかもしれませんが、体に余分なものがたまりすぎて病気になったり、無理をして病を悪化させてしまうこともあります。


漢方医学では、バランスのとれた「中庸」の状態が望ましいと考えられています。虚証に傾きすぎても、実証に傾きすぎても病気になります。虚証、実証がそれぞれ中間に向かうように薬を処方していきます。
なお、証の状態は一定ではありません。実証の人が虚証になったり、その逆のこともあるなど、年齢や生活の仕方などによっても「証」が変わってき、それにあわせて漢方処方も変えていきます。

陰証(いんしょう)、陽証(ようしょう)

傷寒論という古典によると、陰は寒、陽は熱を表し、陰陽のどちらか一方に傾くのは好ましくなく、バランスがとれた状態がよいとされています。
陰陽は、病の進行状況である病気のステージを表す指標でもあります。「陽」は、熱に支配されていて、今まさに病原体が入ってきて戦おうとしている抗病状態。発熱や炎症、充血などの症状があらわれます。一方の「陰」は、冷えによって支配されていて、病が深く入って長引いている状態です。手足が冷えて、寒気がして、顔色も青白いのが特徴です。

 

ところで、「虚実」や「陰陽」のほかに、漢方を理解するのにもうひとつ大切なキーワードに「気(き)・血(けつ)・水(すい)」という概念があります。漢方では、「気・血・水」の3つの要素が体内でバランスよくめぐっていることで健康が保たれていると考えます。したがって、気・血・水が乱れると、さまざまな病気や不調が起こってきます。女性に多い冷え症も気・血・水の乱れから起こります。

次回は、この「気・血・水」についてお話をしていきましょう。

プロフィール

渡邉 賀子 先生
漢方外来
渡邉 賀子 先生

麻布ミューズクリニック院長
医学博士・日本東洋医学会専門医・指導医

久留米大学医学部卒業。熊本大学第三内科に入局、内科を修める。
1997年、北里研究所にて日本初の「冷え症外来」を開設。
2003年、慶應義塾大学病院漢方クリニックにて、女性専門外来「漢方女性抗 加齢外来」を開設。現在も引き続き担当している。
慶應義塾大学医学部漢方医学センター非常勤講師

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