
山歩きの大敵、吸血「ヤマビル」が増えている?
野山が赤や黄色に色づく秋は、キノコ狩りに紅葉狩り、ハイキングなどで賑わう季節。でも景色に見入ってばかりで足元への注意をおろそかにしていると吸血ヒルの餌食になることも。人間の血を吸うというヒルとは?
落ち葉の下に隠れ人間を待ち伏せ
吸血ヒルとは「ヤマビル」と呼ばれるもの。ミミズやゴカイの仲間だそうですが、見た目はナメクジに似ているようにも見えます。
体長は1〜5センチほどで、ゴムのような伸縮自在の体を尺取り虫のように伸び縮みさせて移動します。
1分間に1メートルほどの速度で移動し、野生動物や人間が近づくと振動やにおい、体温、呼吸時の二酸化炭素などを敏感に感知して、落ち葉などの裏から這い出して接近。足などに吸い付いて吸血します。
吸血ヒル
ヤマビルは血液だけを栄養源としているのだそうで、まさに吸血ヒルの名にふさわしい生き物です。
1時間で1ミリリットルほどの血を吸うらしいのですが、ユニークなのは吸われている側が痛みを感じないこと。
血を吸っているときヤマビルはモルヒネのような物質を出すらしく、吸われている人は吸血に気づかないのだそうです。
また血液を固まらせない物質(ヒルジン)も出すそうで、知らない間に衣服や靴下が出血した血液で真っ赤に染まり驚くことも多いようです。
ヤマビルを取り除くときは食塩、エタノール?
ヤマビルに吸血されても感染症にかかった例はないらしく、血を吸われたあとがかゆい、赤く腫れるといったことが多いらしいです。
ただ、症状が続くようなときは皮膚科を受診した方がいいようです。
ヤマビルの吸血に気づいたら、食塩や消毒用エタノールをかけて除去したりライターの火を近づけるのも効果的といいますが、やけどには注意を。
これらがない場合は、前後に1つずつある吸盤のうち、前の吸盤を爪でこそげるように、ゆっくりはがすのだそうです。
応急手当は?
ヤマビルがはがれたら傷口を指でつまんでヤマビルの唾液成分を絞り出し、傷口を消毒用エタノールか水で洗い、ばんそうこうを貼って血が出るのを抑えるのがいいらしいです。
抗ヒスタミン剤の虫刺されやかゆみ止めの軟膏などを塗ると治りが早いようです。
応急手当てと同時に大切なのはヤマビルの駆除といわれます。
ヤマビルを生きたままにしておくと、血を吸ったヤマビルが産卵して数が増えてしまうのを防ぐためらしいです。
一般的な方法としては、塩や消毒用エタノールをかける、ライターやタバコなどの火で焼く、殺ヒルスプレーや忌避剤をかける、刃物で切断するなどで駆除するのがいいらしいです。
ヤマビルは弾力性があるので、靴で踏みつぶそうとしても駆除できないのだそうです。
ヤマビルはイノシシと一緒に人間界に?
ヤマビルは東北から九州、沖縄まで広く生息しています。もともとは山奥にひっそりと暮らしていたようですが、近年は里山など人間の生活圏にまで生息域が拡大しているようです。
背景には人の手が入らず荒廃した森林や放置された農地が増えて、それとともに野生動物が増加し、それらに食事(血液)や繁殖面で依存するヤマビルが一緒に生息域を拡大させてきたということらしいです。
最近、イノシシやクマ、サルなどの野生動物が住宅街に現れて大騒ぎになったというニュースをよく耳にします。
特にイノシシはヤマビルの運搬役として知られています。
山の奥深くに入らなくても、里山や住宅近くの畑などでもヤマビルに吸血される可能性があるわけで、実際、近年はヤマビルの吸血被害が各地で増加傾向にあるようです。
でも、好きで人間の生活圏に入ってきたわけではないイノシシなどの野生動物や、それらにくっついて来るヤマビルにしてみれば、「迷惑なのはこっちじゃ。山に帰してくれ!」といいたいところかもしれません。
ともあれ、ハイキングなどで山に入るときは長袖、長ズボン、長靴、手袋など、肌を露出しない服装でヤマビルからの吸血被害を防ぎましょう。
各自治体のホームページでもヤマビル対策が紹介されています。
<参考>
*「ヤマビルの被害を防ぐために」(神奈川県)
*「ヤマビル対策マニュアル」(栃木県)
*「千葉県ヤマビル対策マニュアル」(千葉県)
*「荒れる森から忍び寄るヤマビル」(東京新聞/2022.10.25)