かぜに抗菌薬(抗生物質)は有効か?
本格的な寒さの到来とともにかぜも流行期に入ったようです。
そんななかある調査で、4割の人が「かぜのウイルスに抗菌薬(抗生物質)は効果的」と答えているそうです。
本当にかぜに抗菌薬は有効なのでしょうか?
「かぜ」という病名はありません?
誰でも知っている「かぜ」ですが、医学的には「かぜ」という病名はないそうです。鼻やのど、気管、気管支などに炎症を起こす「いわゆるかぜ」のことを「感冒」とか「かぜ症候群」と呼んでいます。
インフルエンザも流行性感冒といって、かぜ症候群の1つだそうですが、全身症状が強く、重症化しやすいこともあるので、ふつうのかぜ(普通感冒)と区別するのが一般的なようです。
インフルエンザの原因がインフルエンザウイルスであるように、ふつうのかぜもほとんどはウイルスが原因のようです。
かぜのウイルスは数百種類あるともいわれます。ただ感染力が弱いので、かからない人もいれば、年に何回もかかったりする人がいます。
かぜにかかっても通常は数日で治っていくといわれています。
抗菌薬はウイルスを「やっつけられない」?
「かぜを治す薬はない」とよくいわれます。
かぜ薬はかぜの様々な症状を和らげてくれます。
ただ、かぜ薬がウイルスに作用してかぜを治すわけではなく、薬を飲むことで体力を回復させ、低下した免疫を高めて体に備わった自然の治癒力でかぜを治していくもののようです。
ただ一方で抗菌薬(抗生物質)が、かぜのウイルスに効き目があると間違って理解している人も多くいるようです。
国立国際医療研究センター病院の調査によると、40.0%の人が「抗菌薬はウイルスをやっつける」と誤認しているようです。
また、「抗菌薬は熱を下げる」が24.0%、「抗菌薬をのむとかぜが早く治る」が22.0%、「抗菌薬はかぜに効く」が19.8%というように2割前後の人が誤解していました。(2022年11月30日~12月5日に全国の20~69歳を対象にインターネット調査)
未就学児の親の6割が抗菌薬は「かぜに有効」
さらに同研究センター病院の別の調査(2023年6月16日~19日/20~59歳の0~5歳の子どもの親対象に調査)でも未就学児の親の66.8%が抗菌薬は「ウイルスをやっつける」と誤った回答をしていました。
他にも「抗菌薬はかぜに効く」が55.8%、「抗菌薬を飲むとかぜが早く治る」が50.0%、以下「熱を下げる」(45.2%)、「鼻水が止まる」(42.4%)と続きました。
また「子どもがかぜをひいたら抗菌薬を飲ませたいか」との問いには44.4%の親が「飲ませたい」と答えました。
ここでも先の調査同様、抗菌薬が「かぜに有効」と誤認している人が多くいるようです。
薬剤耐性菌の出現の危険
誤った抗菌薬に対する認識は、「不適切な抗菌薬の服用を招き、ひいては薬剤耐性菌の出現につながる可能性がある」と専門家は指摘しています。
薬剤耐性(AMR)というのは「感染症の原因となる細菌に抗菌薬が効かなくなること」で、さまざまな医療の妨げになるのはもちろん、抗菌薬が必要な病気の治療ができなくなるおそれがあるといわれます。
「抗菌薬は万能薬ではありません」「ウイルスをやっつけません」「飲んでもかぜは早く治りません」と同研究センターでは注意を促しています。
<参考>
*「抗菌薬(抗生物質)の処方に関する調査(2023.2.7)」「未就学児の親への抗菌薬に関する調査(2023.8.28)」(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター)
*「風邪に抗菌薬有効 誤解6割」(東京新聞/2023.10.4)
*「家庭医学大事典」「子ども医学館」(小学館)