恐怖体験「金縛り」の正体は睡眠障害だった
布団に入ってうとうと眠りに入る直前のこと。音もなく何者かがするすると部屋に侵入して、寝ている自分の体に馬乗りになってくる。「やめろ! やめてくれ~っ」――逃れようと懸命にもがこうとするのだが、体が硬直して指一本動かせない。助けを呼びたくても声すら出ない。動かせるのは目玉だけという恐怖。「た、助けて!」
――これが俗にいう金縛りといわれるもの。
みなさんは、こんなホラーな経験したことありませんか?
金縛りのメカニズム
金縛り中に得体のしれない人物を見たり、体に何かがのしかかってきたといった恐怖体験から心霊現象として語られがちな金縛りですが、実は金縛りは医学的に解明されているもので、睡眠障害のひとつ。専門的には「睡眠麻痺」と呼ばれるそうです。
金縛りは、多くの人に起こりうる現象で、思春期の若者を中心に日本人の約40%の人が一生に一度は金縛りを経験するという報告もあります。
睡眠麻痺とはいったいどういう現象なのでしょうか?
そもそも睡眠には、レム睡眠(浅い眠り)とノンレム睡眠(深い眠り)があって、これを約90分のサイクルでくり返しています。夢を見るのは、浅い眠りのレム睡眠のときです。レム睡眠中は、脳は部分的に活発に活動していますが、体は深く眠って休息している状態。この間、眼球運動と呼吸運動を除いて体の筋肉は完全に弛緩しています。体を動かそうとしても動かない状態です。このため、健康な人は、たとえば跳んだり走ったり暴れたりする夢を見ていても、睡眠中に夢と同じ行動をとることはありません。
通常の眠りはノンレム睡眠(深い眠り)からはじまって、最初のレム睡眠(浅い眠り)は入眠から60~90分後にあらわれ、以後は90分周期でこれを交互にくり返します。ところが、何らかの原因でレム睡眠(浅い眠り)から睡眠がはじまったり、明け方などにレム睡眠時に急に目覚めたりすると、脳は起きていて夢と現実の区別がつかないまま筋肉が弛緩して動けない状態になります。これが金縛りの正体です。
金縛りはレム睡眠中に起こるために、自律神経の活動が不安定になり、心拍や呼吸が乱れて苦しくなる場合があるそうです。こうした胸苦しい感覚が「誰かに抑えつけられている」といった幻覚をつくり出します。金縛りのときに幽霊や恐ろしいものを見たいう人が多いのもこんな理由からなのです。
金縛りのとき、不安や恐怖を伴うために本人は必死にもがいているつもりですが、専門家によると、実際に金縛りにあっている人を観察したところ、本人はとくに苦しがる様子もなく、ごく普通に眠っているように見えるそうです。
中には心配な睡眠障害も
金縛りは、睡眠不足や睡眠リズムの乱れ、心身のストレスがたまっているときなどに起こりやすいといわれています。誰でも経験しうる睡眠障害といえる のですが、ときに、金縛りが日常的に起こったり、寝入りしなや目覚める直前に幻覚を見る、昼間耐えがたい眠気が起こるようなときは「ナルコレプシー」という過眠症の一種であることも。また、高齢者や、パーキンソン病など神経系の病気を抱えている方は、レム睡眠行動障害といって、夢の内容といっしょに体が動いて起き上がって暴れるといった、金縛りとは逆の行動を起こすことがあるようです。
睡眠不足や睡眠リズムの乱れなどが気になるときは、放っておかずに睡眠外来や神経内科など専門の医師に相談するのがいいでしょう。